思いもよらぬ行動力
ごろ寝をするときのため、座布団は床の上に敷いていた。染付の花鳥模様のやきものに合わせて、白地に紺の花柄のインド綿のカバーをかけ、「コーディネイト」したつもりである。が、母は、「この未完成の一角が、どうも気になる」けれども、ひとり暮らしでソファは、どう考えても分不相応だ。「お客さまがみえたときのために」と母は言うが、客なんてそうそう来やしないのである。しかしなぜか、母のソファ願望はおさまらなかった。「引っ越しのお祝いに、自分がお金を出すから、買いにいきなさい」とまで言った。「いい年をして、親の年金をあてにするつもりはないから、そのうちゆとりが出来たら考える」と、ぐずぐずしていると、「私が『ヤサカ』に行ってきてもいいんだけど。でも、やっぱり本人が好きなものでないとね」これには驚いた。「ヤサカ」とは、親の家からバスに乗っていくところにある、家具のディスカウント店である。母は七十過ぎてから外出がめっきり減り、ひとりでは近くのスーパーまで夕飯の買い物に出るくらいしかしなくなっていた。その母を、思いもよらぬ行動力へと駆り立てるものは何なのか。
模範的なソファの使い方
(そこまで欲しいわけ?)考えてみれば、親の家では、母はよくソファにかけている。また、私のところのダイニングセットはイギリスの中古品のため、椅子が高めなことは高めなのだ。母にとっては床に足が届かず、くつろげないのかも知れない。「客なんて来やしないし」と思っていたが、親も「客」だった。母は誰よりもまず自分が座ることを想定しているのではなかろうか。(しかたない、買うか)本腰を入れて取り組むことにした。「足りないものは、夫ね」などとプレッシャーをかけられるよりは、よほど楽な課題である。「本腰」と言っても私の場合、例によって周辺の聞き込み調査からだ。小出さんは、たしかソファベッドにしていると言っていた。それだと、今後親が泊まりがけで来ることがあったとき、便利かも知れない。さっそく電話で、使用状況を尋ねてみた。小出さんは、「うーん」と吃り、「あれはちょっと、失敗だったかも知れないと思ってる」。一つで二つを兼ねるなら、狭い部屋にはちょうどいいと考え、購入した。事実、夜、仕事から帰ってくつろぐ間はたたんだまま、寝る直前に伸ばすという、ソファベッドのコマーシャルに出られそうな、模範的な使い方をしていた。
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